「ホントはあなたに生えてない端末なんて私は欲しくもなんともないから、もいで捨てて来たんだけどね。 天使は羽根を捨て天国を捨て空を捨て、大好きな人間のあの人と地上で死ぬまで一緒に暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。 ……我ながら美しくまとまったと思うんだけど、ウタゲ? どうかな」 pic.twitter.com/2TvWPAg18t
— かたな (@Psi_Moon) March 3, 2017
「――我ながら美しくまとまったと思うんだけど、ウタゲ? どうかな」
「うん、いいと思う。すっごく、すっごく、いいと思う!」
語りを終えたヴィイに、パジャマ姿のボクはひとしきりはしゃいだ。
「そう? あなたがそう言ってくれたんなら――」
ヴィイは途中で言葉を切る。ヴィイが語った“おはなし”に追随して、幻影が湧き出てきたからだ。
幻影はボクの知るヴィイと似ていて、でも違う姿。金髪と緑の目、けれど目の穏やかさが違う。袖余りのかわいいコート、カバンにウサギのキーホルダー。
ボクらはだまって幻影を見つめる。幻影の髪がボクのほっぺをくすぐる。ボクらと触れ合うことすらできるそのまぼろしは、けれど数十秒ほどで薄れて消えていく。
自我を持つに至らない夢幻のヴィイ。その姿を、ボクはしっかりと、しっかりと記憶に焼き付けた。
ボクたちバベルにとって現実と空想の境目は薄く、夢は簡単に実体を持つ。でも、だからこそ――実体化することのない“おはなし”を、ボクは尊いと思う。
「……人間が想像できることのすべてを、人間が実現可能だとするなら」
ヴィイのつぶやきにボクはうなずく。
記憶の中のお話は、きっと未来では叶っている。
「だいじょうぶ。ヴィイなら、かなえられるよ」
ほほえんで、ふわわ。ねむい。
意識を手放して、寝てる間にしんでいるやらいきているやら。ボクのいのちはそれほどいい加減で、でもしっかりしているところもある。
「おやすみ」
ヴィイにあいさつ。
彼女の目を見る、きらりと光る。いのちの形が崩れても、すきの気持ちは変わらない。
「おやすみ、お姉ちゃん――良い夢を」
そうしてボクは、“おはなし”を心に抱えて目を閉じる。
ボクのいもうとが、しあわせになるというのなら、これ以上のよいゆめはないのだから。