人体視願/ヴィイ:『春待つゆめ』


「――我ながら美しくまとまったと思うんだけど、ウタゲ? どうかな」
「うん、いいと思う。すっごく、すっごく、いいと思う!」
 語りを終えたヴィイに、パジャマ姿のボクはひとしきりはしゃいだ。

「そう? あなたがそう言ってくれたんなら――」

 ヴィイは途中で言葉を切る。ヴィイが語った“おはなし”に追随して、幻影が湧き出てきたからだ。
 幻影はボクの知るヴィイと似ていて、でも違う姿。金髪と緑の目、けれど目の穏やかさが違う。袖余りのかわいいコート、カバンにウサギのキーホルダー。
 ボクらはだまって幻影を見つめる。幻影の髪がボクのほっぺをくすぐる。ボクらと触れ合うことすらできるそのまぼろしは、けれど数十秒ほどで薄れて消えていく。
 自我を持つに至らない夢幻のヴィイ。その姿を、ボクはしっかりと、しっかりと記憶に焼き付けた。
 ボクたちバベルにとって現実と空想の境目は薄く、夢は簡単に実体を持つ。でも、だからこそ――実体化することのない“おはなし”を、ボクは尊いと思う。

「……人間が想像できることのすべてを、人間が実現可能だとするなら」

 ヴィイのつぶやきにボクはうなずく。
 記憶の中のお話は、きっと未来では叶っている。

「だいじょうぶ。ヴィイなら、かなえられるよ」

 ほほえんで、ふわわ。ねむい。
 意識を手放して、寝てる間にしんでいるやらいきているやら。ボクのいのちはそれほどいい加減で、でもしっかりしているところもある。

「おやすみ」

 ヴィイにあいさつ。
 彼女の目を見る、きらりと光る。いのちの形が崩れても、すきの気持ちは変わらない。

「おやすみ、お姉ちゃん――良い夢を」

 そうしてボクは、“おはなし”を心に抱えて目を閉じる。
 ボクのいもうとが、しあわせになるというのなら、これ以上のよいゆめはないのだから。

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