それは見過ごされて埋もれていく、あたりまえの小さな死。
“今ボクは、横になってる。ベッドの脇には再生中のオルゴール。
立ち上がることはできそうにない。ボクの腕も、足も、細くなりすぎたから。
……きれいな曲。だんだんねむくなってきた。
ただ、すこしさびしい。
こんなボクでも、今は何か残るものがほしい。
わすれられたくない。
消えたくない”
あるいはそれとは別の、刻みつけられ染みとなったひとつの死。
『だから、今はまだ、死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない』
『愛してる』
あるいは、死とはまた別の、選択される狂気の形。
キョウコにヴィイと名付けられ、そして後にその名を捨てる“姉”の思い。
『ヴィイとはしばらく別れる事になるだろう。
けど、寂しがらなくていい。
周りにはキョウコや、他にも良い人がたくさんいる。
研究を怠らなければ、きっと人間にも会えるだろう』
* * *
その全ては、ウタゲと呼ばれる少女のものだった。
だが今は、全てのウタゲの存在が絶えていく。
あるいはヴィイと話しながら、唐突に自分の頭を砕き。
あるいは冷凍睡眠に入るように、自らを長い眠りに就かせていった。
「ボクは、ウタゲ……だと思う。
今まではウタゲだったよ。いまはどうなんだろう?」
残ったのは、ただ一人だけ。
そうして彼女はあなたと対面する。
「なんて、静かなんだろう」
彼女にあなたの顔は見えない。
「ボクはいつもオンラインだったのに。
ボクと同じ身体の百人のボクは、考えも感じることも共有してた。
ボクはそういう人でなしだったのに。胸の中はずっときらきらでばらばらの、星屑でいっぱいだったのに――
今は、なにもない。
これってもしかして、ほんとうのほんとうに、“なにもない”っていうことなのかな?」
あなたの心を理解することもできない。
「ねえ。
――デート、しよっか。
よくわかんないけど、たぶん最後なんだから、あまあまなことをしようよ」
そのままであなたは、彼女と時を過ごすことになる。
“――――”
“――――――”
“――――――さびしいよ”
* * *
そして彼女は思い出す。
「……もしボクが、これからなにものかになれるなら」
“ ”
「そういう種類の人でなしに、ボクはなりたい。
ボクは、忘却書庫になりたいんだ」
想像可能な全てのことは、必ず誰かが思い出す。
人体視願/ヴィイ
後日談『うたごえ』
そろそろ終わらせてもいいだろう。