『考えてみようか。
別れの言葉を』
――“夢”を選んだヴィイの本当の冒険は、ハルモニアへと渡った後に始まる。
彼女を襲うものは、死を越えた危険。
自分にとって何よりも大切なものを、永久に奪われる痛みだった。
「……やっと、言えた。
唐突かな。
それとも、今更かな?」
“心”のヴィイは、その危険を選ばない。
彼女は現実の冒険を選ばず、壮大な物語を自分の中で終わらせる。
何よりもある一言を述べることを選んで。
『人間の皮を被ったミミズの群れ』
『乳と尻が無限に膨れる豚』
『大切だから食べさせてよ』
それは、物語。
一人分の死と、世界と同量の狂気の物語。
魔女『バーバ・ヤガ』が、世界の全てを司る。
「――うん。
この言葉が私とあなたを、ずっとつないでくれればいいね」
それはきっと、物語ではない何か。
触れることと、語り合うことで作られる、ただの女の子といっしょの時間。
『――やだ。
こんなところで、終わりたくない。
わたしは――
――終わりたいんじゃない。
はじめたいんだ』
“夢”を始めたいと、ヴィイは願う。
たとえ自分がどうなるとしても。
バベルの旅を続ける果てには、今までに見たこともない世界があると信じて。
「今でも私は、あなたのことを理解できた訳じゃない。
それでも、確かなものはある」
“心”を始めたいと、ヴィイは願う。
自分に素直に言葉を紡ぐという、ささやかな心情の冒険を志して。
「あのね。
私――――」
泥と砂利の道を越え、ようやく楽園に辿り着く。
ただ目を開ければそれでいい。
(人体視願/ヴィイ メインストーリー 2011年8月完結予定)