私は母を愛していた。
今でも愛している。
私の母親は、少し変わった人だった。
私がネットから下品なサイトにアクセスしたり、面白い話をしてくれる友達と遊んだりした後、決まって母は私に“躾”をした。
使われるのは凶器に似た道具だ。
母は私の手を、脚を、時にはお尻までもを電磁鞭(ウィップ)で打ってくれる。
その行為は本来とても苦しいものらしいけれど、私には微笑みと共に受け入れられた。
だってそれは愛なのだから。
母は、私を愛しているのだからこんな事をするのだと、いつもいつも言い聞かせていた。
私は愛されているのだから、この躾に耐えるべきなのだと。
言われるまでもない、と私は思う。
だって愛されるのはとても嬉しくて、打たれるたびにおなかの奥から熱いものがにじみでてしまう。
打たれる時は苦しげな反応を演じなければならない、と思ったのはいつからだろう。
それでも愛しているとささやかれるたびに、私は密かに達していた。
言葉と身体の両方を使って愛してくれるなんて、私はなんてしあわせなんだろう。
それが罰であるはずはない。だって母は、ときどき私が何もしていなくても、鞭を使ってくれるんだから。
私の中の愛は、いつしか弾けそうなほど大きく膨らんでいた。
誰かに愛されるだけではなく、誰かを愛したい。
具体的な方法は分からないまま、そんな情念に突き動かされて、私はふらふらと家を出る。
目を留めたのは街の広場に立っていた、やさしげな顔の女性だ。
見も知らないそのおばさまを、私は母に似ていると■った。
いつの間にかおばさまは、血まみれの裸で密室に閉じ込められていた。
下半身から尻尾のようなものを五本ほど生やし、口の端から泡を垂れ流しているおばさま。
次の道具を選びながら、くすくすと楽しそうに笑っている私。
それについて、細かい事は良く覚えていない。
ただ最後にはその部屋にクルセイダーが飛び込んできた事と、“それ”がとても楽しかった事は、良く覚えている。
そうして今の私は、ロッホ・ランの白い部屋にいる。
じっと壁を見つめながら、私は最後に聞いた母の言葉について考えていた。
“こんな娘(モノ)、産まなければ良かった”という、悲鳴じみた叫びについて。
■データ
名前:マルキ・ド・サド
性別:女
年齢:15
コロナ:執行者
ミーム:パンデモニウム
ブランチ:デーモンロード
■設定
「このオリジンで私の名に聞き覚えを持つなんて、変な人ね。
呼び名なんて好きにすればいい。他の事も、あなたの好きにすればいいわ。
……あ、でも、その、このノートだけは覗かないでね?」
「ど、どうしようどうしよう。私、あの人の事が大好きなのにっ。
“あなたを指一本動かせないほど拘束してから穴という穴をいたぶり尽くしたいの”
なんて言ったら、きっと嫌われちゃうよお……」
「ねえ――知らない?
私は、なんでルシファー様からこの力を授かったのかな?」
「私には、何ができるの?
私には、何をするのが許されているの?
私が、こんな私が……何かを守るとか、救うとか、そんな事をしてもいいの……?」
本名フランソワ=ドナシアン=アルフォンス・ド・サド。
パンデモニウム出身のデーモンロードだが、故郷での事については多くを語らない。
冷たい顔をしながら、伺うように人の顔を見て、無難な距離と行動を探っていく。
好かれもしない代わりに嫌われもしない、そんな事に安堵を見出せる娘。
元は最終戦争を生き残った貴族の末裔、そしてサイード教の中でも禁欲的な宗派の家に生まれた少女。
彼女はアーコロジーの中で、ごく普通の子供として扱われ育っていった。
14歳の時に通りすがりの女性を陵辱し、クルセイダーに緊急逮捕されるまでは。
判決は、VR煉獄ロッホ・ランへの収容刑。
だが、フランソワ――あるいはサドと呼ばれる娘は、“無痛室”と呼ばれるロッホ・ランの中でも特殊な区域に収容された。
そこは何の刑罰も行われない、ただひたすら収容者をあらゆる他者より完璧に隔離するための空間。
人為的に苦痛の感覚を消去した者か、でなければ全くの狂人を収監するための部屋である。
そんな白い部屋の中で、自分の罪だけを見つめていた彼女に、ある日ふたつの贈り物が授けられた。
ひとつは“無痛室”より直通の、ネットゲーム“オリジン”へのゲート。
ひとつはオリジンでの牙となる邪教の力、スレイマン・システム搭載の携帯端末。
ルシファーはあくまで唐突に、ひとりの少女を異世界へと導いた。
Marquis de Sade――サド家の侯爵、という呼び名はそれ以降のものだが、彼女が自ら名乗ったものではない。
大量のデーモンを使役してオリジンを闊歩するその姿から、いつしか呼ばれ始めた仇名である。
その爵位は自分にふさわしいものではない、と思う彼女も、では何がふさわしいのかと問われれば答えられない。
デーモンを使う目的すら定かでなく、どこぞの村にでも頼まれれば妖精と一緒の家事手伝いを喜んで行うような少女だ。
そんな彼女は現在でも、オリジンから一歩出れば獄中に舞い戻るしかない身である。
それでもしばしば彼女がパンデモニウムに帰還する理由は、獄中で書き始めた小説を、獄中で完結させるためだ。
彼女が肌身離さず持ち歩くノートの中には、現在長編小説の第一章のみが記述されている。
■コメント
いや、『凄く魅力的な変態を描かれる』と褒められたもので、ついMixiの内輪向けキャラ設定から転載を。
元ネタであるTRPGについての知識が無いと意味が取れない部分は多いと思いますが(気になる部分があれば質問でもどうぞ)、だいたい彼女がどういう類の生き物であるかは分かるかと思います。
しかしこれは『凄く魅力的な変態』と言うより、ただの『凄い変態』なのではなかろうかと強く思いますが。
あ、ちなみに同名の実在人物は単なる設定上のモデルです。そういうキャラが沢山いるゲームなのです。
>(気になる部分があれば質問でもどうぞ)
ということなので、質問させて頂きます。彼女に贈り物をしたのは”ルシファー”の様ですが、ルシファーは、ネットゲーム”オリジン”の管理者のような立場の者なのか、或いはそれと同時にオリジン内での邪教の神のような存在なのか…ってストーリーの根幹に関わる話かもですね…。
元ネタのTRPGは知りませんが、上記以外はおおよそ把握…あ、この世界でのネットゲームの、五感への干渉度とか。やはり「仮想”現実”」と呼べる位のレベルでしょうか。
かなり抵抗のある描写もありましたけど、それも含めての娯楽(娯楽?)と言うことで、”彼女”の行く末が気になりつつ――。
>ルシファーは、ネットゲーム”オリジン”の~
>この世界でのネットゲームの~
ルシファーはパンデモニウム側の超越者ですね。
実は“オリジン”自体に重大な秘密があるのですが、これに関しては説明しようと思うとまずこのゲーム自体の設定の説明から始めなければならないので、よければ基本ルールだけでも買ってみてください(宣伝)
>かなり抵抗のある描写もありましたけど
やっぱりそうですよね。
行く末については、いつか実際のゲーム内で使う機会があれば。
>よければ基本ルールだけでも買ってみてください(宣伝)
把握したつもりでも認識にズレはあるでしょうし、探してみようかと思います。
>やっぱりそうですよね。
とは言っても、作品に多様性はあって然るべきだと思いますし、これはこれで自分的には大丈夫になってきました。…間口が広がったことに感謝するべきでしょうか。未だ抵抗はありますが。(むしろそれは当然か。)
実際、敷居が高いというか間口が狭い面もある様に感じますが、むしろとことん突き抜けてもいいんじゃないかと思います。一要素のみで全体を見誤るようなことはしたくないですし、もし小説化したならばこれも読んでみたいと思わせて頂きました。
なんか偉そうなことばかり言ってしまって申し訳ありません。今回も出しゃばり過ぎてしまいましたね。ちょっと自重します。どうも失礼致しました。