萌理賞投稿しそびれ作『指に鬼女』(ユビ ニ キジョ)/残酷表現含む

 指は性器だと思う。

「だからね、お兄ちゃんがいけないんだよ」
 ミキはもうずっと前から、ぼくの指を舐めている。
「ん……ふぅ……」
 ミキの頬は淡く陶酔に染まっていた。
 第一関節から血で真っ赤になったぼくの薬指に唇で吸い付き、肉の削げた部分に犬歯を食い込ませて遊ぶ。
 痛みはない。
 感覚は麻痺している。
「……ゆうくんの手はあったかいね、だったかな」
 あの子が口にしたセリフだ。
「あっかたいね」
 ミキは何でも知っている。
「あったかいね。あったかいね。あったかいね。あったかいね」
 言葉の合間にキス。指を噛み切るには、顎の力だけが足りない。
 ――ぼくはミキから隠れて、あの子と生まれてはじめてのデートを。
 けれど、どうしてか、あの子の名前を今は思い出せない。
 むしろどうでもいい。
 さっきゴミ袋に詰められた肉が、どれほど長い髪を生やしているかとか、そんなことはどうでもいいことだ。
「へへ」
 とても嬉しそうに、そして少しだけ恥ずかしそうにミキがはにかむ。
 前歯が「こりん」と音を立てて、ぼくの薬指の骨にぶつかった。