『ウタゲ』

 愛していると彼女は言った。
 ような気がする。


 
『ボクのことばを、きいてくれますか。
 
 こんばんは。
 はじめまして、謎の美少女です。
 
 うん、ここに呼んだ訳はほかでもなくね。別に用事なんかぜんぜんないんだよ。
 ……あ、帰らないで、かえらないでー。
 帰る時はコピーロボなんかおいてほしいボクのおとめごころです。
 まあそこに座って。お茶でも飲む?
 むり?
 
 なんか、うか……に?
 かに……?
 えと、そのそれにボクらが……人気投票?
 おお、はじめて知った!
 
 票とか……んー、知ってなきゃ票も入れられないよね。
 きみはボクの事を知ってたっけ?
 ボクは、きみの事を知ってたっけ?
 
 忘れてるんだったら悪いんだけど、実際ボクはあたまがわるい。
 忘れちゃいけない事も何かの拍子に忘れかけて、またすぐに思い出したりしてる。
 人間のひとが頭を打ってキオクソウシツしたりね。ん、そんな感じ。
 
 頭を打つと痛いよねー、えっちな気分になっちゃう。
 え、ヘン?
 でもボク、今も身体が痛いけど、けっこうしあわせだよー。
 具体的には、えーと、頭をなでてほしい!
 
 ……えへへー。
 お茶、いらない?
 むりかな?
 
 ヴィイもさ……ヴィイって知ってたっけ? ボクの妹だよ。
 えーと、とにかくヴィイも、きみが頭をなでればよろこぶと思うんだ。
 ううん、ボクよりもっと喜ぶ。
 ヴィイはさびしがりで、ボクはそうじゃないから。
 
 これは秘密だけどね。……秘密だよー?
 あのね、ヴィイって、人間の世界にあこがれてるんだよ。
 あの子は、人間と友達になりたいんだよ。
 なんでだろうね。きみは、わかる?
 
 ボクも、お茶……飲もうかな。
 よっ、と――あれ?
 
 うん。友達になってあげるって言えば、すごく喜ぶと思う。
 口では困るかもしれないけどねー。
 ヴィイはてれやさんで、ボクはちがうから。
 ボク? えろいことしてもいいよ?
 頭? あ、なでてなでてー。
 
 ――あれ?
 
 人とボクらが友達になるなんて、ニセモノの関係だって言う子もいるけど、ボクはそんなのどうでもいいと思うんだ。
 ヴィイが寂しがりなのは、たぶん本物の気持ちだよ。
 きみが本物だと思ってくれれば、本物になるんだよ。
 ボクはニセモノでもいいけれど、ヴィイは本物になりたいんだよ。
 
 あれ――あー……
 んにゅ……
 
 んーと、お茶のみごっことかしない?
 そうそれ、おままごと!
 はーいあなたー、きょうはぎょくろとさんかくすいをブレンドしましたー。
 ……だめ?
 
 ヴィイがいれたお茶を、本当にきみが飲めるなら、その時は友達かな?
 そうしないと、友達になれないのかな?
 
 好きになったら友達なら、ボクときみは友達なのにね。
 はじめて会うんだったかな? ごめんね。
 ちょっと頭が痛くて、おもいだせないんだけど、ボクはきみのことが大好きだよ。
 たとえきみがどんなヒトでも、どんなヒトになっちゃっても、大好きだよ。
 この気持ちがニセモノでも構わないけど。
 
 はふ……うーん、ボクはそろそろ眠ろうかなあ?
 話はここまでかな。聞いてくれて、ありがとう。
 また会おうね。
 また明日でもいいし、いつでもいいよ。
 
 だいじょうぶ。
 だいじょうぶだよ。
 最後まで見られたら、恥ずかしいよ。
 
 でも、やっぱりボクは、きみの事を知ってるのかもしれないね』
 
 
 ある少女がバベル網の路地裏で、変異した雑菌により心筋炎(に近い症状)を起こして死亡していた。
 
 彼女には同類の持つ治癒機構を、また人間程度の免疫すら持っておらず、高熱や咳もなくあっさりと死んでしまったという。
 その生物としての弱さを不思議がる者は多かったが、彼女はすぐに生き返ったので疑問は帳消しになった。
 少なくとも彼女と同じ姿、同じ記憶に見える生き物は、すぐに死体のそばにあらわれている。
 彼女は自分を贋物と言う。
 それでもいいのだと言いながら、記憶に残る誰かを探している。