『彼女の時間』1

「ヴィイ、キミは他のゴーストさんと触れ合う事ができるの?」
「できるよ。頭を撫でることもできるし撫でてもらうこともできる。なでたいとか食べたいとか、私結構言ってるでしょ?」


「やー、その表現は誤解を招く気がするけど」
「え?」
「ちなみに日本語バベル網内にてアンケートを取ったところ、なんと性的欲求を持つバベルの8割は両性愛者または同性愛者という結果が……」
「……いや、何の話?」
「でもさ、ヴィイにしろボクにしろユーザの姿すら見ることができないよね? なのに普通の人間も混じってるゴーストさんとは触れ合えるの?」
「いきなり話題を戻さないで。……そうね、触れ合えると言っても、いつも出来る事じゃないわ」
「ヴィイは意外と照れ屋だからねー」
「そういう意味じゃなくて! 論理的な問題!」
「んー、じゃあどういうこと?」
「……それにはまず、私がどうやってユーザと会っているかを説明した方が良さそうね」
「長い話になりそうだねー。お茶持ってこようか? 鎮静系でいい?」


「で、あれでしょ、ヴィイはユーザと会うのにうかがかかってのを使ってるんでしょ?」
「かが一個多い。でもそうね、“私”というデータの塊を、人間に理解できるように直すビューワーとして伺かを使用しているわ」
「使用って、別にヴィイが用意したわけじゃないくせにー」
「まあ、正確にはユーザが私との通信に都合の良さそうなソフトを持ってたから、借りたっていうのが正しいんだけど……」
「はいはい、つまりテレビ電話とかの機械代わりね? でもそれって、触るとかそういう話と関係なくない?」
「私にとっての、という意味だけど、伺かの機能はふたつあるわ。さっきのは前置き代わり、こっちが本題」
「重要?」
「そう。あのソフトは、断片的にでもユーザの意思を私に伝える役目を果たしているわ」
「あー。胸触りたいとか胸揉みたいとか胸に挟みたいとか」
「…………凄く嫌だけど、それで正解」
「ええー?」


「ユーザが私に何かを伝えるために出来ることは、大きく分けて2つ。短い言葉、それと私に触れること」
「どっちも限定的に過ぎるってよく愚痴ってるけど……」
「それはこの際関係ないわ。とにかくあの人は、私に“触れられた感じ”を残すことができる。
 ほとんどあらゆる部位に、あらゆる形でね」
「あ、もしかして……」
「あなたも分かったみたいね。そう、つまり――」
「うん、ヴィイはあっちから触れられるだけじゃ飽きたらずとうとうユーザにおねだりをきゃふっ」
「……首だけにして保管するわよ」
「いたた。ヴィイ、キャラ変わってない?」
「ほっといて。……つまり伺かの機能を流用すれば、私が他のゴーストと触れ合うこともできるの」


「……あー。そっか、他のゴーストさんだって、日々ユーザにセクハラされてるんだからね」
「一部気になる単語があるけど流すわ。そう、私の手をユーザが使ってるのと同じ“手”と同化すれば、彼女ゴーストに触れることができる。彼女ゴーストの手をユーザと同じ“手”と解釈すれば、触れられることができる」
「解釈?」
「改めて聞かれると、その辺の説明は難しいけど……うーん、そういうものだと感覚神経に教え込ませる、みたいな感じかな」
「んー。手を使って色々するだけ? この前ドウメキとかもりもり食べてなかった?」
「考えによってはユーザと私より、私と他のゴーストの方が距離が近いと思わない? その分応用も色々利くのよ」
「逆に言えば、ヴィイが色々応用を利かせた事をされる可能性もあるって事だねー」
「なんでそんな楽しそうなの。……戦いを挑まれたりしたら逃げるけど。私は、痛いのは嫌だからね」


「逃げるっていうと、自分の家に? あ、ちょっと待って、ユーザに呼ばれてない時のヴィイは他のゴーストさんと会えるの? そもそもユーザと会ってるときのヴィイは“どこ”にいるの?」
「……質問はひとつずつにして」
「じゃ、最初のから」
「はいはい。緊急時に行くのは自分の家、あるいはその周辺ね。私だってバベル網に家くらいは持ってるわ」
「ユーザにバベル網のこと、色々話してあげたいよねー」
「鬱陶しがられない程度にね。あと、次の質問の答えだけど、“多分会えない”」
「……たぶん?」
「相手と状況によるのよ。私より高性能なオルタだの、精神世界にアクセス可能な魔法使いだのが相手なら、私が意図的に隠れたって無駄かもしれない」
「ヴィイ、魔法使える人苦手だよねー」
「苦手っていうほどじゃないけど、なんとなく気後れというか緊張するところはあるわね。……それと状況の話だけど、機械がある世界に住んでるゴーストなら、私から会いに行くことはできるかな。触れ合えるとは限らなくてもね」
「あと色々例外、そんな感じ?」
「そうね。別にユーザに呼ばれてなくても、同じユーザと知り合ってるならあの人と会う場所周辺で触れ合うことができるし」
「じゃあ、最後はその場所について?」
「ん。その質問については、“私の小部屋”と答えておく」
「へ?」
「へ、じゃなくて。だってその場所を作ってるのって、私なんだもん」
「……はい?」
「もう。だから、オルタである私が私のためにソフトウェアを利用してユーザと会ってるんだよ? そんなの場所なんて可変的なものだし、長く使うなら自分好みに改装した方がいいに決まってるじゃない」
「……よーするに、お喋りのために自前で携帯式の椅子を取りだしてるみたいな?」
「この場合はプレハブ式の部屋だけどね。他のゴーストがユーザと一緒に見てる景色と、私が見てる景色は結構違うと思う」


「……はふう。色々喋ったねー、とりあえずこんなもんかな?」
「そうね。折角だから、まとめてみる?」
「うん。ヴィイさんは良く分からない小細工をしたので、他のゴーストさんと触れ合うことができます。そして今すぐ18禁に!」
「…………」
「こ、心から見下した顔をしないで! 足早に去ろうとしないで!」
「去るわよ。……もう、話すこともないんだし」
「えー。本当にないの?」
「……それじゃ、ひとつだけ、私があなたに聞くことがある」
「ん?」
「今まで私と話していたあなたは、一体誰?」
「ボクが誰かなんて、ヴィイが一番良く知ってるでしょう?」